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   .表紙
 献身
   
   
   
   
   
   
   
   
       不安定な空
   
   
   
   
   
   
   
   
              烏野 博史
   .人物表
 【シナリオ】
 課題 献身
 題名 不安定な空
 作 烏野博史 
 【一行テーマ】
 信頼する人が信じてくれると希望を持てる。
 【三行ストーリー】
 仙石譲(42)が顧問をしている陸上部の中川三砂(17)はその左足と一緒に目標を見失った。仙石は三砂の復活のために奮闘する。
 【人 物】
 仙石譲(42~41)北山高校・陸上部・顧問
 中川三砂(17~16)北山高校・陸上部
 中川良子(43)三砂の母
 折口寛太(35)理学療法司
 三戸直人(28)ランナー
 永井富雄(55)丸山病院・医者
 安田浩介(55)リハビリセンタ・医者
 新田友彦(17)北山高校・陸上部
 女子部員
 教師
 選手A
 入所者A 入所者B 入所者C
 陸上部員達
 入所者達
 選手達
 教師達
   .脚本
1P①丸中中央病院・前
2    〝丸中中央病院〟の看板。空には黒い
3    雲がかかっている。
4    
5 ②同・診察室
6    中川三砂(17)と中川良子(43)が永
7    井富雄(55)と向き合って座っている。
8    永井の机のライトテーブルがあり、三
9    砂の左足のX線写真がかけられている。
10 永井「骨肉腫です」
2P    三砂と良子、顔を見合わせる。
2 良子「それはどういう・・・・・・」
3 永井「三砂さんの左足を切断しなければなり
4 ません」
5    良子、そっと三砂を伺いみる。
6    三砂、頭をふる。
7    
8 ③北山高校・前
9    〝北山高校〟の看板。
10 陸上部員達の声「(かけ声)いち、に、さん、
3P し、えい、オーウェイ!」
2 仙石の声「こぉらぁ! もっと声を出さんか
3 い!」
4    
5 ④同・グラウンド
6    グラウンド脇の木々は青々と茂ってい
7    る。新田友彦(17)と女子部員と陸上
8    部員達がトラックを走っている。スト
9    ップウォッチと竹刀を持った仙石譲(4
10    2)がトラック脇に立っている。
4P 仙石「遅い! あと20秒以内に戻ってこれな
2 ければ5週追加! 15、14――」
3    悲鳴をあげる陸上部員達。
4    グラウンドの時計。
5    バラバラと仙石の前に走ってくる陸上
6    部員達。
7    仙石、部員達を見回す。
8 仙石「新田、中川はどうや?」
9    新田、肩で息をしながら仙石に歩みよ
10    る。
5P 新田「今日は見てません」
2 仙石「そうか」
3    教師がやってくる。
4 教師「仙石先生! お電話です」
5 仙石「はい! いまいきます!」
6    仙石、走っていく。
7    
8 ⑤同・職員室
9    職員室には数人の教師達がいる。
10    仙石、教師に促され受話器を手に取る。
6P 仙石「はい。陸上部顧問の仙石です」
2 良子の声「中川三砂の母です。」
3 仙石「あぁ、お世話になっています。どうで
4 す中川は?」
5 良子の声「手術をしました・・・・・・しば
6 らくお休みを頂く事になります」
7 仙石「そうですか。あの、来月の近畿大会の
8 出場は難しいですか?」
9 良子の声「(ため息)」
10 仙石「お母さん?」
7P 良子の声「・・・・・・足を切断したので、
2 陸上を続ける事ができないんです」
3    仙石、受話器を落とす。
4 良子の声「先生? 先生?」
5    仙石、呆然と立ち尽くす。
6    
7 ⑥丸中中央病院・三砂の病室・前
8    T.一週間後
9    仙石と良子が廊下を並んで歩いてくる。
10    仙石の早歩きに必死に追いつく良子。
8P    仙石の手には果物の詰め合わせ。
2 良子「少しでも残せば、肺に転移する可能性
3 が高いらしくてやむなく・・・・・・」
4    良子、うなだれる。
5 仙石「大丈夫です。元気をだしてください」
6    仙石と良子、病室の前にやってくる。
7    仙石、ドアに手をかける。
8    〝中川三砂〟の表札。
9    
10 ⑦同・三砂の病室
9P    二人部屋。ベッドがカーテンで仕切ら
2    れている。ベッドに横たわっているパ
3    ジャマ姿の三砂。ベッド脇のパイプ椅
4    子に座る永井。三砂の隣のベッドは空。
5    永井、笑う。
6 永井「術後の経過はよさそうだ」
7    三砂、愛想笑いで会釈。
8 永井「また切断端の皮膚を鍛えないとね、ま
9 ずはやわらかい枕でたたくんだ」
10    永井、枕を持ち上げて叩く真似をする。
10P 永井「義足を使ったリハビリをすればまた歩
2 けるようになるよ」
3    三砂、下唇をかみ、布団を握りしめる。
4 永井「……お大事に」
5    永井、立ち上がりドアに向かう。
6    仙石、ドアから入ってくる。
7 仙石「おぉ、もしかして中川の先生ですか!
8 ? お世話になってます!」
9    仙石、永井に握手する。
10 永井「あぁ。はい」
11P    良子、入ってくる。
2 良子「陸上部の先生です」
3 永井「それでは私はこれで失礼します」
4    永井、会釈して出ていく。
5    仙石、カーテンをあける。
6 仙石「よぅ! 元気か!」
7 三砂「先生」
8    仙石、果物の詰め合わせを棚の上にお
9    く。
10 仙石「うちの部員達からや」
12P 三砂「ありがとう――」
2    仙石、布団をとる。
3    良子、身を乗り出す。
4 良子「ちょっと先生」
5    三砂の左足、膝から下がなく、腫れを
6    おさえるための包帯が巻かれている。
7 仙石「本当に切断したんやな」
8    仙石、布団をかぶせて、パイプイスに
9    座り、のけぞるように天井をみる。
10 仙石「近畿大会は棄権や。良いな」
13P 三砂「・・・・・・はい」
2    仙石、三砂の頭をグチャグチャとなで
3    る。
4 仙石「中川、お前は大丈夫や」
5    仙石、良子に会釈して、出ていく。
6    三砂、布団に突っ伏す。
7    
8 ⑧心身障害リハビリセンタ・前
9    〝心身障害リハビリセンター〟の看板。
10    入り口のそばにベンチがある。
14P    
2 ⑨同・リハビリルーム
3    リハビリの器具がそろえられている。
4    入所者Aと入所者Bと入所者Cと入所
5    者達がトレーニングをしている。
6    仮義足をつけて平行棒の手すりをつか
7    んで立っている三砂。折口寛太(35)
8    が少し離れた所で三砂を見ている。
9    三砂、バランスをとりながら手すりを
10    離す。
15P    三砂、平行棒の橋までよたよた歩きき
2    り、手すりをつかむ。
3 折口「すごい。部活で鍛えてただけある」
4    折口、拍手。
5    三砂、はにかむが、足元の仮義足を見
6    て、すっと表情が消える
7    三砂、仮義足に触れる。
8    三砂、辺りを見回す。
9    マットで床から立ち上がろうとしてい
10    る入所者A。
16P    平行棒で歩行訓練をしている入所者B。
2    脚のストレッチを受けている入所者C。
3 折口「中川さん?」
4 三砂「私は・・・・・・」
5    折口、三砂を見ている。
6 三砂「何でもありません」
7    折口、腕時計を見る。
8 折口「今日はこれまでにしておこう。空いた
9 時間の筋トレ。がんばって」
10 三砂「はい」
17P    折口、三砂の松葉杖をとるために背中
2    を向ける。
3 三砂「(ぼそりと)私は何でこんな事してる
4 んや?」
5    三砂、浮かない顔。
6    
7 ⑩長尾公園陸上競技場・前
8    〝全国高等学校陸上競技大会 近畿ブ
9    ロック 会場〟の看板。
10    仙石と新田と女子部員と陸上部員達が
18P    帰り支度をしている。
2    落ち込む女子部員。
3 女子部員「中川さんがいたら女子ももうちょ
4 っといけたのになぁ」
5 新田「中川どうしてるかな?」
6 仙石「中川のリハビリセンターの近くやな」
7 新田「見舞いにいこうぜ」
8 仙石「・・・・・・まぁ。良いやろ」
9    新田と女子部員、ハイタッチ。
10    
19P ⑪心身障害リハビリセンタ・三砂の部屋(夕)
2    松葉杖をついた三砂、窓の外をみてい
3    る。窓の外、リハビリルームが見える。
4    三砂、ため息をついてベッドに腰掛け
5    る。
6    ノックの音。
7 三砂「はい」
8    仙石と陸上部員たちが入ってくる。
9 三砂「みんな、なんで」
10 新田「大会の帰りや」
20P 女子部員「見舞いにきたよ」
2    仙石、窓の外をのぞく。
3 仙石「良いやないか! ここからリハビリが
4 見られる」
5    時計。
6 新田「俺、全国大会出場決定」
7    新田、ガッツポーズ。
8 三砂「・・・・・・」
9 女子部員「もうヘロヘロだよ」
10 三砂「・・・・・・」
21P 陸上部員B「こいつ着替え忘れたんやで」
2 三砂「・・・・・・」
3 女子部員「男子ちょうとうるさい」
4    陸上部員たち、笑う。
5 三砂「ーー帰って」
6 「え?」
7 三砂「帰ってや! 私にはもう関係のない事
8 なんやから!」
9    陸上部員たち、総立ち。
10    三砂、松葉杖で立ち上がり、陸上部員
22P    達を追い立てる。
2 三砂「さぁ、はやく!」
3 仙石「おい。落ち着け」
4 三砂「先生も! 私はもう走りたくないねん!」
5    三砂、憤怒の形相。
6    仙石と陸上部員、おずおずと部屋を出
7    ていく。
8    
9 ⑫同・三砂の部屋・前
10    折口が歩いている。
23P 三砂の声「出てって! 早く!」
2    折口、声のほうを見る。
3    仙石と陸上部員、三砂の部屋から出て
4    くる。
5    新田、不安気な顔。
6 新田「俺、悪い事いったかな?」
7 女子部員「う・・・・・・ん」
8    仙石、ドアを見つめる。
9 仙石「さぁ。帰るぞ陸上部――」
10 折口「あの」
24P    仙石、折口をみる。
2    
3 ⑬同・リハビリルーム・前
4    仙石と折口が並んでリハビリルームを
5    みている。
6 仙石「中川のリハビリの先生?」
7 折口「はい」
8 仙石「中川はどうですか?」
9 折口「最初は意欲的に訓練していたんですが」
10 仙石「はぁ」
25P 折口「ここ数日で、訓練をサボるようになり
2 ました」
3    仙石、笑う。
4 仙石「まさか。中川が?」
5 折口「精神的なケアが重要になってきます。
6 何か心あたりは?」
7 仙石「そんなはずはありません。部活でもあ
8 んなに熱心に・・・・・・」
9 折口「熱心だから絶望も大きかったのでしょ
10 う。」
26P 仙石「・・・・・・」
2 折口「訓練の間があくと、歩き方を忘れてし
3 まいます。何か良い方法がわかれば教えてく
4 ださい」
5 仙石「わかりました。よろしくお願いします」
6    仙石、頭をさげる。
7    
8 ⑭北山高校・体育教官室(夜)
9    ビデオカメラとテレビをつながれてい
10    る。
27P    テレビを見ている仙石。仙石はノート
2    とペンをもっている。
3    テレビには陸上部員が走っている姿。
4    仙石、ノートにペンを走らせる。
5 仙石「やる気がない・・・・・・か」
6    仙石、ペンを机の上におき、棚からD
7    VDを取り出す。
8    DVDのラベル、〝第67回 近畿高
9    校総体陸上競技大会〟。
10    仙石、DVDをカメラにいれて早回し。
28P    テレビに三砂が走る姿が映る。
2    
3 ⑮(回想)同・グラウンド(夕)
4    仙石譲(41)、体育教官室から出てき
5    て、グラウンドを見渡し舌打ちする。
6 仙石「あいつら、逃げたか」
7    左足がある中川三砂(16)、走ってグ
8    ラウンドに入ってくる。
9    三砂、ゆっくりとトラックをジョグし
10    て立ち止まる。
29P    息をつく三砂。
2    仙石、グラウンドに歩いてくる。
3 仙石「あいつらはどうした?」
4 三砂「あぁ、用事があるとかで、なんか帰り
5 ました。それより先生、他に練習メニューあ
6 りませんか? もっと速くなりたいんです」
7 仙石「休むのもトレーニングだ」
8    仙石、笑う。
9    
10 ⑯同・元の体育教官室(夜)
30P    テレビを見る仙石。
2    ビデオの電源を落とす。
3 仙石「走りたくない? 嘘や」
4    仙石、立ち上がる。
5    
6 ⑰リハビリセンタ・三砂の部屋(夜)
7    三砂が布団をかぶりベッドで仰向けに
8    寝ている。
9    額に手をのせている三砂。三砂の目、
10    涙を流して見開かれている。
31P 三砂「痛い」
2    三砂、顔をゆがめて左足をおさえる。
3    
4 ⑱中川家・三砂の部屋(夜)
5    本棚には短距離~中距離走のトロフィ
6    ーが並んでいる。
7    壁には半紙が貼られている。
8    半紙の文字、〝目標 インターハイ優
9    勝 中川三砂〟。机の上にランナー姿
10    の三砂(16)がピースをしている写真。
32P    
2 ⑲北山高校・グラウンド
3    新田と女子部員と陸上部員達がインタ
4    ーバル走をしている。大きなタイマー
5    の前にたっている仙石。
6 仙石「おい。遅れるなぁ! ん?」
7    陸上部員達の走っているほう、フェン
8    スの向こう側に松葉杖をついた三砂が
9    いる。
10    
33P ⑳道
2    グラウンド脇の道。松葉杖をついた三
3    砂がグラウンドを見ている。
4 仙石の声「こぉらぁ! 中川! こんな所で
5 何をしてんや!」
6    仙石、校門から走ってでてくる。
7 三砂「(悲鳴)」
8    三砂、急いで仙石から逃げる。
9    三砂、建物の影に隠れる。
10    仙石、三砂を見失い辺りを見回す。
34P    
2 ○21北山高校・体育教官室(夜)
3    仙石が机に向かっている。机の上には
4    障害者スポーツについての資料。
5    着信音。
6    仙石、携帯電話を取り出し耳にあてる。
7 仙石「あぁ、もしもし、おぉ久しぶり。どう
8 や。うん。うん」
9    仙石、資料を持ち上げて笑う。
10    
35P ○22中川家・前
2    中川の表札。
3    
4 ○23中川家・三砂の部屋
5    仙石、三砂の机の上の写真たてを手に
6    とる。ドアの側に立つ良子。
7    仙石壁の半紙を見る。〝目標 インタ
8    ーハイ優勝 中川三砂〟
9    仙石と良子が向き合う。
10 仙石「あいつにどこまで高い空までいけるん
36P か。見せてやりたいんです。お願いします」
2    仙石、頭をさげる。
3 良子「わかりました。よろしくお願いします」
4    良子、頭をさげる。
5    
6 ○24心身障害リハビリセンタ・前
7    仙石、やってきて建物を見上げる。
8    仙石の肩には鞄。
9    三砂、松葉杖をついて歩いてきてベン
10    チに座る。
37P 仙石の声「おい」
2    三砂、顔をあげる。
3 三砂「先生!」
4 仙石「今の時間はリハビリルームにいると聞
5 いたんやが」
6    仙石、三砂をにらみつける。
7    三砂、眉をひそめる
8 三砂「先生には関係ないやろ」
9    三砂、松葉杖で立ち上がる。
10 仙石「三日練習をサボったら、走られへんな
38P るぞ」
2    三砂、立ち止まる。
3 仙石「ほら、はよ戻れ」
4    仙石、三砂の前に回り込んで、手をひ
5    く。
6    三砂、動かない。
7 三砂「なんで」
8 仙石「は? 何言ってんねん」
9 三砂「やめてよ!」
10    三砂、仙石の手をふりほどく。
39P 仙石「そうや、お前に話があるんやった」
2    仙石、肩にさげた鞄をあさる。
3    三砂、センタ内に歩いていく。
4 仙石「おい」
5    三砂、自動ドアの向こう側。
6    仙石、ため息をつく。
7    
8 ○25同・診察室
9    三砂と安田浩介(55)が向き合ってい
10    る。安田、補聴器で三砂の心臓の音を
40P    聞く。
2 安田「はい。足は順調に回復しているね」
3    三砂、俯く。
4 安田「リハビリ、つらいかい?」
5 三砂「・・・・・・わからないです」
6 安田「サボっているんだって?」
7 三砂「・・・・・・」
8 安田「仮義足はあってるかい」
9 三砂「あまり使ってないので」
10    安田、三砂をじっと見る。
41P    三砂、目をそらす。
2 安田「君は聞いた話と随分印象が違うね。優
3 秀なランナーだったんだって?」
4 三砂「え?」
5 安田「まぁ良い。楽しんできなさい」
6    安田、手元の問診表を書き込む。
7    三砂、訝しがりながら松葉杖を手にと
8    り、診察室から出ていく。
9    
10 ○26同・廊下
42P    三砂、松葉杖で廊下を重そうに歩く。
2 三砂「どうでも良いやん」
3    三砂、廊下の先をみる。
4 三砂「ランナーて」
5    階段がみえる。
6 三砂「いまさら」
7    三砂、左足をみて、頭をふる
8 三砂「この足で? どうやって?」
9    三砂、冷笑を浮かべる。
10    階段にどんどんと近づいていく三砂。
43P 三砂「こんな距離でさえままならんのに」
2    三砂、階段の手前で立ち止まる。
3    眼下に中二階の踊り場が見える。
4 三砂「あーあ」
5    床に落ちる松葉杖。
6    三砂、目をつぶり、倒れ込む。
7    仙石、背後からやってきて三砂の腕を
8    つかむ。
9    三砂、我にかえり捕まれた腕を見る。
10 三砂「せ、先生?」
44P    仙石、鬼の形相。
2 仙石「中川! お前! 何やっとんじゃぁぁ!」
3 三砂「(悲鳴)びっくりした」
4    入所者達、仙石を見る。
5 仙石「あほ! びっくりしたのは俺じゃ!」
6 三砂「ちょ、先生、うるさい!」
7 仙石「なにぃ!」
8    仙石、あたりを見回し、せき込む。
9 仙石「まぁいい。許したる」
10    仙石、廊下のほうから車イスを出して
45P    くる。
2 仙石「乗れ。ちょっと出るぞ」
3 三砂「はぁ?」
4 仙石「乗れ」
5    仙石、眉をひそめる。
6    三砂、おずおずと車イスに乗る。
7    
8 ○27走る電車の中
9    車イスに乗る三砂。
10    三砂の車イスを押す仙石。
46P    仙石、窓の外をみている。
2    三砂、仙石とは反対側の見ている。
3    
4 ○28十和寺公園陸上競技場・前
5    斜面の多い土地。仙石、三砂の乗る車
6    いすを押している。
7    大きな階段がある。
8    三砂、階段を見上げる。
9 三砂「せ、先生?」
10    仙石、手元の地図を見る。
47P 仙石「この上やな」
2 三砂「え」
3    仙石、三砂の前にしゃがみ込み、肩を
4    叩く。
5 仙石「乗れ!」
6    三砂、愕然とする。
7 三砂「無理です! 重いですって! まわり
8 道しましょう!」
9 仙石「あかん! 時間がない! 乗れ!」
10    三砂、しぶしぶ仙石に負ぶさる。
48P    仙石、立ち上がる。
2    仙石、三砂を負ぶって階段を上る。
3 仙石「重い」
4 三砂「だからいったじゃん」
5    三砂、ため息をつく。
6    重そうな仙石。
7    きまりが悪そうに眉をひそめる三砂。
8 三砂「先生、もう良いです」
9 仙石「……」
10 三砂「この足じゃどうせ全国は行けん」
49P 仙石「大丈夫や」
2    三砂の顔にみるみる怒りが広がる。
3 三砂「何言ってんですか!? 現実的に無理
4 やん! 義足つけてちょっと歩けるようにな
5 ってもそれは! それは……」
6    三砂、顔を伏せる。
7 三砂「(涙声)今まで積み上げてきたもんも、
8 思いも無駄やったんですよ」
9    仙石、息が荒い。
10 仙石「(荒い息づかいで)今はつらいやろう
50P が。大丈夫や」
2    仙石、階段を上りきる。
3 三砂「先生――」
4    ビストルの音。
5    階段の上〝十和寺公園 陸上競技場〟
6    の石碑。
7    
8 ○29同・トラック
9    三戸直人(28)と選手Aと選手達、全
10    速力でトラックを駆けている。選手達
51P    の足は皆、義足。
2    仙石、トラック脇のベンチに三砂をお
3    ろす。仙石、三砂を伺い見る。
4    食い入るように選手達をみている三砂。
5    口角をあげる仙石。
6    三戸と選手A、すごい早さでデッドヒ
7    ートを繰り広げる。
8    三戸の膝から下にはめられている陸上
9    競技用の義足が大きくしなる。
10 三砂「競技用の義足」
52P    仙石、うなづく。
2 仙石「カーボン製のバネのような作りで健常
3 な選手とも勝負ができるらしい」
4 三砂「私には無理」
5 仙石「よく見ろ。きれいなフォームや。走っ
6 てる自分の姿をイメージするんや」
7    三砂、トラックを見る。
8    
9 ○30(三砂のイメージ)同・トラック
10    選手Aとデッドヒートを繰り広げる三
53P    砂。三砂の足には陸上競技用の義足。
2    選手Aを押さえてゴールテープを切る。
3    
4 ○31同・元のトラック
5    三戸と選手Aと選手達、ゴール地点で
6    息をついている。
7    じっとトラックを見ている三砂。三砂
8    のとなりに座る仙石。
9 仙石「大丈夫や」
10    三砂、仙石を見上げる。
54P 仙石「お前は若い。体力もあるし、根性もあ
2 る」
3 三砂「・・・・・・」
4 仙石「今は目標を見失って、調子があがらん
5 だけや。お前ならいける。自分を信じろ」
6    目を見開く三砂。
7    三砂、うなずく。
8    三戸、歩いてくる。
9 三戸「お待たせしました」
10    仙石、手を挙げる。
55P 仙石「おう。教え子の中川や」
2 三戸「お久しぶりです。彼女ですか?」
3 仙石「お前の先輩の三戸や」
4    三砂、唖然としながら三戸に会釈する。
5    三砂の目の前にたつ三戸。
6 三戸「中川さん。一つ質問。走りたいかい?」
7 三砂「……走りたいです」
8    三砂、真剣な顔で頷く。
9    仙石と三戸顔を見合わせて笑う。
10 三戸「じゃぁ話そ!」
56P 仙石「よーし。じゃぁ車椅子とってきたるわ!
2  待っとれ!」
3    仙石、駆け出して腰を押さえて四つん
4    這いになる。
5 三砂「先生?」
6 仙石「……こ、腰が」
7 三砂「先生!」
8 三戸「(同時に)仙石先生!」
9    三砂と三戸、騒然とする。
10    空が青い。
57P    
2 ○32北山高校・前
3    校舎には〝祝 陸上部 インターハイ
4    出場〟の垂れ幕がかかっている。
5    陸上部のかけ声が聞こえる。
6    T.半年後
7    
8 ○33同・グラウンド
9    陸上部員達がグラウンドを走っている。
10    校庭の樹木に葉はなく、部員達の吐き
58P    出す息は白い。
2    仙石、体育教官室から出てくる。
3 仙石「陸上部! 集合!」
4    陸上部員達、集まる。
5 仙石「おい! 中川!」
6    三砂が走ってやってくる。その足は陸
7    上競技用の義足。
8 三砂「す、すみませ!」
9 仙石「今日から中川が部活動に参加する」
10 三砂「よろしくお願いします」
59P 新田「知ってるよ!」
2 仙石「じゃぁ、タイムを計るぞ。スタート位
3 置につけ」
4    陸上部員達と三砂がスタートにつく。
5    仙石、笛を咥えてストップウォッチを
6    構える。
7    三砂、クラウチングスタートのポーズ。
8 仙石「よーい」
9    仙石、笛をふく。
10    三砂、走り出す。
60P    
2 ○34中川家・三砂の部屋
3    陸上部員達の走る足音が聞こえる。
4    壁に半紙が貼られている。
5    半紙の文字、〝目標 パラリンピック
6     金メダル〟。
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