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   .表紙
 恋文
   
   
   
   
   
   
   
   
      かみのほん同盟
   
   
   
   
   
   
   
   
              烏野 博史
   .人物表
 【シナリオ】
 課題 恋文
 題名 かみのほん同盟  作 烏野博史 
 【一行テーマ】
 思いを届けるにはその努力がいる。
 【三行ストーリー】
 思いを届ける事が下手な出版社の営業部員、土道渡(28)は望月栞(26)に恋をし、その努力をするようになる。
 【人 物】
 土道渡《つちみちわたる》(28)共文社・営業部員
 望月栞《もちづきしおり》(26)天竜書房・店員
 三宅一馬(50)共文社・営業部長
 田沼隆一(28)同・営業部員
 藤沢明美(40)天竜書房・店長
 書店員
 看護師
 人
 看護師達 営業部員達 客達 乗客達
 営業部員達
   .脚本
1P①天竜書房・前
2    【共文社】の紙袋をさげた猫背の土道
3    渡(28)、大型書店【天竜書房】の看
4    板を見上げる。
5    ため息をついて書籍売場に入る土道。
6    
7 ②同・書籍売場
8    広いフロア。カテゴリー別に書籍の棚
9    が並んでいて、中には【栞の棚】があ
10    る。客は間ばらで奥には文具売場もあ
2P    る。藤沢明美(40)が書店員のエプロ
2    ン姿で棚の整理をしている。
3    土道、紙袋を持って明美の側に歩いて
4    くる。
5 土道「あの・・・・・・」
6    明美、土道から離れるように棚を整理
7    していく。
8    追いかける土道、紙袋から【風の人】
9    フェアのお願いの資料を取り出す。
10 土道「あ、お願いが・・・・・・」
3P 明美「今忙しいの」
2 土道「あの!」
3 明美「しずかにして!」
4 土道「・・・・・・すみません」
5    明美、ため息をつく。
6    土道、側にある【栞の棚】を見る。棚
7    の横の宝箱の上に冒険譚関連の小説が
8    置かれている。ポップ【さぁ、ひと夏
9    の冒険に出かけよう】。
10    土道、一冊を手にとって見つめる。
4P 明美「・・・・・・文芸書なら望月さんね。
2 今は倉庫で返品処理をしているはずよ」
3    明美、資料を土道に突き返す。
4    土道、資料を紙袋に戻す。
5 土道「はい・・・・・・」
6    申し訳なさそうに会釈する土道。
7    
8 ③同・倉庫
9    土道、ノックをして入る。
10    薄暗い倉庫。
5P    いくつかの棚が並んでいる。
2    窓から光がさしている。
3    本が崩れる音。
4 栞の声「(悲鳴)」
5    棚から崩れた本と段ボールの山。本の
6    間から望月栞(26)の片腕が見える。
7 土道「え」
8    土道、本の山にかけより栞の腕をひっ
9    ぱる。
10    栞、本の中から顔を出す。
6P    土道、手を離して尻餅をつく。
2    そのまま這いだし立ち上がる栞、天竜
3    書房のエプロン姿。
4 「いたた、ありがとうございます。本を積
5 み過ぎてしまって・・・・・・大丈夫ですか?」
6    呆然と栞を見上げる土道。
7    首をかしげる栞。
8 「大丈夫ですかー?」
9 土道「・・・・・・あ。共文社の新しい営業
10 の土道と申します」
7P    尻餅をついたまま名刺を取り出して栞
2    に差し出す。
3    名刺を受け取る栞。窓からの木漏れ日
4    が栞を照らしている。
5    呆然と見とれる土道。
6 「共文社さん」
7    栞、土道を引き起こす。
8    土道、紙袋から資料を取り出す。
9 土道「あの、これを・・・・・・よろしくお
10 ねがいします」
8P    栞、資料を受け取る。
2 「【風の人】フェア。書籍の特設コーナー
3 の設置。ん?」
4    栞、資料をのぞき込む。
5 「風間先生じゃないですか!」
6    表情をかがやかせて土道を見る栞、再
7    び資料に視線を落とす。
8 「(次第にぶつぶつと)……でも難しいで
9 すね。時期的に……スペースもかぎられてい
10 ますし、でも、うまく時期をずらばなんとか
9P なるか? 作ろうと思っていた棚は――」
2 土道「……無理にとは」
3 「え?」
4    栞、怪訝な顔をあげる。
5 土道「ほら予定があれば仕方ないです……し」
6    栞、不満そうにため息をつく。
7    土道、ばつが悪そうに床の本を拾う。
8 「あぁ、いいですよ。やりますから」
9    栞、本を拾う。
10    書籍が積まったいくつかの返品用の段
10P    ボール。
2 「ありがとうございます」
3 土道「それじゃぁ、僕はこれで」
4    栞、笑顔で手を振る。
5    会釈して扉に手をかける土道、振り返
6    る。
7 土道「あの・・・・・・」
8 「何でしょう?」
9    栞の笑顔。
10 土道「あ、良いです」
11P    そのまま一回転して、ドアの縁に肩を
2    ぶつけて出ていく土道。
3    
4 ④共文社・前
5    5階立てのビル。
6    【共文社】の石碑。
7    
8 ⑤同・営業部
9    田沼と営業部員達が各々の机で仕事を
10    している。部屋の中央には営業会議用
12P    の長机が二つ置かれている。壁には掛
2    け時計。三宅の机には【風間一寸】特
3    設コーナー設置OK店舗リストの資料
4    がある。
5    土道、自分の座席に大きく仰け反り座
6    っている。顔の上にはハンカチを乗せ
7    ている。
8    怪訝な顔で土道を見る田沼。
9    三宅、ビジネス鞄を持ってやってきて
10    自席にすわる。
13P 三宅「田沼。【風間一寸】コーナー設置依頼
2 の状況はどうだ?」
3 田沼「いやぁ、難しいですね」
4 三宅「土道は?」
5 土道「・・・・・・はい」
6 三宅「聞いているのか? 土道?」
7 土道「・・・・・・はい」
8 田沼「おい。土道どうした?」
9 土道「・・・・・・はい」
10 三宅「好きな娘でもできたか?」
14P    土道、ゆっくり頷く。
2 土道「・・・・・・はい」
3    田沼、立ち上がる。
4 田沼「まじ。どんな娘?」
5    田沼、土道の顔のハンカチをとる。
6 田沼「デートに誘えば?」
7 土道「それは・・・・・・」
8    土道、がっくりうなだれる。
9 田沼「何だよ」
10    三宅、机の上の資料を見る。
15P 三宅「土道。一店舗もOKもらっていないのか?」
2 土道「・・・・・・すみません」
3 三宅「やる気ないのか?」
4 土道「決してそんな事は・・・・・・」
5 三宅「【風の人】の発売は来月だぞ。新刊発
6 売のタイミングで書店にプッシュしてもらっ
7 て話題呼ぶんだ」
8    壁には、風の人の発売まであと【一ヶ
9    月】と書かれたカウントダウン用の張
10    り紙。
16P 土道「はい」
2    土道、体勢を戻してノートPCに向か
3    う。
4    田沼、席に戻る。
5 田沼「(小声で)ラブレターはどうだ?」
6    土道、唖然と田沼を見る。
7    
8 ⑥駅・ホーム(朝)
9    土道、階段をあがってくる。土道の手
10    にはメモ帳。
17P    歩きながらメモ帳に文章を書き進める
2    土道。
3 土道の声「ごぶさたしております。共文社の
4 土道渡と申します。お見苦しい所もあるとお
5 もいますが――」
6    土道、向こう側からやってきた人にぶ
7    つかり落としたメモ帳を蹴る。
8 土道「すみません」
9    土道、拾おうとメモ帳のほうへ走る。
10    土道、立ち止まる。
18P    メモ帳を拾う栞、私服姿。鞄を持って
2    いる。
3    栞、土道を見る。
4    土道、栞からメモ帳を受け取る。
5 土道「・・・・・・ありがとうございます」
6 「ん?」
7    栞、土道の顔をのぞきこむ。
8    土道、右に視線をはずす。
9    栞、右から土道の顔をのぞき込む。
10    土道、左に視線をはずす。
19P 「あ! 共文社の! えーと・・・・・・」
2 土道「土道です。」
3 「あぁ! (改まって)おはようございま
4 す」
5    栞、笑顔で頷き、お辞儀をする。
6 土道「おはようございます」
7    土道、お辞儀をする。
8 「それは・・・・・・」
9    土道、メモ帳を背中に隠す。
10 「ビジネスメールの下書きですね」
20P    自信満々の栞。
2    がっくりする土道、メモ帳を鞄にしま
3    う。
4 土道「・・・・・・はい」
5    電車がやってくる。
6    
7 ⑦走る電車の中(朝)
8    吊革を持って立っている土道と栞。乗
9    客達を見る栞。スマートフォンを見て
10    いる乗客達。
21P 土道「なぜここに・・・・・・?」
2 「病院に行ってたんです」
3    栞、窓の外を指さす。
4    窓の外、吉野病院の建物と看板が見え
5    る。
6 土道「あ……僕も行きます」
7 「そういえば……」
8    栞、鞄から資料を取り出す。
9 「【風間一寸】先生!」
10 土道「え?」
22P 「面白いですよね! 本格ミステリー!」
2    土道、うれしそうに頷く。
3 土道「……はい」
4    栞、不満気な顔。
5 「それじゃ風間作品の良さを知らない書店
6 員には伝わりませんよ。」
7 土道「・・・・・・すみません」
8    微笑む栞。
9 「そうだ。またうちに来てください」
10 土道「え・・・・・・」
23P    電車が揺れる。体勢を崩した土道、メ
2    モ帳を落とす。
3    メモ帳を拾おうとして頭をぶつける土
4    道と栞。
5    
6 ⑧天竜書房・書籍売場(夜)
7    レジには書店員、フロアには客がまば
8    らにいる。書店員用エプロン姿の栞は
9    棚の整理をしている。
10    土道、やってくる。
24P    栞、土道に気づく。
2 「土道さん」
3    土道と栞、【栞の棚】の前にやってく
4    る。
5 「じゃーん。私の棚」
6 土道「あぁ」
7    【栞の棚】、【風間一寸】の【迷惑な
8    他人】が置かれている。
9    客がやってくる。
10    栞、土道をおして棚から離れる。
25P    栞のポップを見ている客、本を手に取
2    りレジに歩いていく。
3    土道、栞を伺いみる。
4    レジで商品を購入する客。
5    栞、嬉しそうにガッツポーズをとる。
6 書店員「ありがとうございました」
7 「ありがとうございました!」
8    土道と栞、【栞の棚】の前に戻る。
9 「自分がおすすめした本が売れる時が至福
10 の時間ですね」
26P 土道「・・・・・・」
2    土道、棚のポップを触る。
3 「私が考えたんです」
4    土道、栞を見る。
5 「ここを通ったお客さんに届くように、読
6 む人の顔を想像して書くんです。」
7    土道、メモ帳を取り出して書く。
8    栞、土道の様子を見てにんまり笑う。
9 「紙の本同盟ですね」
10 土道「え?」
27P 「風間先生から営業の土道さん。土見さん
2 から私達書店員。そしてお客さまへお届けす
3 る」
4 土道「あの……また来て良いですか?」
5 「はい」
6    土道、嬉しそう。
7    
8 ⑨共文社・前
9    【共文社】の石碑。
10    
28P ⑩同・営業部
2    土道と三宅と田沼と営業部員達、長机
3    を二つ並べて取り囲むように座ってい
4    る。机の上にはノートPCと書店の特
5    設コーナー設置状況をまとめたリスト。
6    カウントダウンの張り紙、風の人発売
7    まであと【18日】。
8    リストを見てしかめっ面の三宅。
9    土道と田沼、顔を見合わせる。
10 三宅「土道、最近よくやってるじゃないか。」
29P 土道「地方にも当たって見ようと思います。」
2 三宅「経費は出んぞ。」
3 土道「連絡をとってみます」
4 三宅「わかった。やってみろ」
5    田沼、土道に耳打ちする。
6 田沼「(小声)どうしたの土道ちゃん。良い
7 事あった?」
8 土道「(小声)・・・・・・はい」
9    土道、嬉しそうにうなずく。
10    
30P ⑪天竜書房・書籍売場(夕)
2    スーツ姿の土道と私服姿の栞、並んで
3    歩いている。
4 「【風間一寸】作品の多くは好きな本でも
5 あるのでオススメしやすいですね。フェアの
6 状況はどうですか?」
7 土道「・・・・・・難航しています。地方の
8 書店にはお願いのメールを出そうかと思いま
9 す」
10 「メール・・・・・・?」
31P 土道「どうしました?」
2 「届ける努力を惜しんじゃ駄目です」
3 土道「届ける・・・・・・努力」
4 「はい」
5    栞、笑顔で頷く。
6    
7 ⑫同・文房具店(夕)
8    手紙用品が置かれている棚を見ている
9    栞。裏側の棚を確認している土道。
10    栞、便せんと封筒を手にとり、土道に
32P    見せる。
2 「手紙のが良いですよ。ほら、これなんか
3 風間作品のイメージにもピッタリ!」
4    土道、封をするためのシールを見てい
5    る。
6    恋文用の便せん。
7    土道、便せんを手にとる。
8 「良いのありました?」
9    栞、土道に歩み寄る。
10    土道、慌てて便せんを戻したせいで、
33P    いくつかの商品を落とす。
2 土道「す、すみません」
3    土道と栞、商品を拾う。
4    
5 ⑬共文社・営業部
6    各々、営業部員達が仕事をしている。
7    長机の前で文具屋の買い物袋を持って
8    立っている土道。長机には封筒と便箋
9    と封用のシールの束。長机の横には封
10    筒搬送用のワゴン。
34P    買い物袋を机の脇に置く土道。
2    土道、長机で便箋に手紙を書き始める。
3    壁の掛け時計は10時を指している。
4    
5 ⑭同・営業部(早朝)
6    壁の掛け時計は4時を指している。
7    手紙を書き終えてボールペンを机に置
8    く土道。
9    土道、最後の手紙をワゴンに乗せる。
10    土道の顔、満足気。
35P    ワゴンを押す土道。
2    長机の上を片づけている土道。
3    土道、机の脇に置かれた買い物袋を見
4    る。
5    買い物袋の中、恋文用に買った便箋な
6    どが入っている。
7    
8 ⑮安井荘・前(朝)
9    レトロな木造アパート【安井荘】。安
10    井荘の前には坂道になっている。
36P    ドアの窓ガラスには【安井荘】と書か
2    れている。
3    
4 ⑯同・土道の部屋・居間(朝)
5    本棚がいくつかあって本が詰まってい
6    る。
7    パジャマ姿のまま文机に向かう土道。
8    文机の上には恋文用の便箋。
9    真剣な顔で文章を書いている土道。
10 土道「相手に届くように、相手が読んだ時の
37P 顔を想像して、書く。」
2    筆を走らせる土道。
3    封筒には【望月栞様へ】と書かれてい
4    る。
5    猫が入ってきて土道の膝元にすりよる。
6 土道「これを店長さんに・・・・・・いや」
7    猫をなでる土道。
8    
9 ⑰天竜書房・前(夜)
10    スーツ姿の土道が鞄を持って立ってい
38P    る。
2    リュックを背負った私服姿の栞、店か
3    ら出てきて、立ち止まる。
4 「土道さん、どうしました?」
5    栞に歩みよる土道、ポケットから封筒
6    をとりだして、ちゅうちょしながら、
7    栞に差し出す。
8 土道「・・・・・・どうぞ」
9    土道から封筒を受け取る栞。
10    まじまじと封筒を見る栞。
39P 「見ても?」
2 土道「あっ」
3    土道、封を開けようと制止する。
4 土道「・・・・・・あとで読んでください。」
5    土道、いそいそと立ち去る。
6    道の向こう側で、土道が道ゆく人にぶ
7    つかって頭を下げている。
8    栞、封筒を透かしてみようとする。
9    
10 ⑱駅・ホーム(夜)
40P    電車を待つ栞。電車がやってくる。
2    
3 ⑲走る電車の中(夜)
4    椅子に座っている栞。
5    リュックから封筒を取り出す栞。
6    栞、封を切り取り出した手紙を開く。
7    手紙を読む栞。
8    窓の外に雨がふりはじめる。
9    手紙を読み終える栞、手紙を封筒にし
10    まうと、リュックに納める。
41P    窓の外に目をやる栞、陰鬱な笑顔。
2    
3 ⑳共文社・営業部
4    【風の人】、発売まであと【0日】と
5    書いた張り紙。各々の机で仕事をして
6    いる角野と田沼と営業部員達。
7    ノートPCで売り上げ状況を確認する
8    土道。
9    土道を見つめる田沼。
10 田沼「最近がんばってるな。やっぱり何かあ
42P ったか?」
2 土道「いえ何も・・・・・・(低い声で)ま
3 ったく」
4 田沼「え?」
5 土道「外回りにいってきます」
6 田沼「あぁ、いってらっしゃい」
7    土道、弱々しく微笑んで出て行く。
8    
9 ○21安井荘・前
10    屋根に滴る雨の水滴。
43P    カエルの鳴き声。
2    地面には水たまりができている。
3    
4 ○22同・土道の部屋・居間
5    土道の文机の上には恋文用の便箋が十
6    数枚置かれている。猫がやって机にの
7    り便箋を落とす。
8    便箋。【お元気ですかーー】
9    便箋。【どうしていますかーー】
10    便箋。【最近見ないですがーー】
44P    どの便箋も書きかけ。
2    
3 ○23天竜書房・前
4    スーツ姿で天竜書房を見上げている土
5    道、店内に入っていく。
6    【天竜書房】の看板。
7    
8 ○24同・書籍売場
9    土道、入ってきて、エプロン姿の明美
10    に歩み寄る。
45P 土道「あの」
2 明美「あら、えーと」
3 土道「土道です。共文社の」
4    土道、明美に促されて歩く。
5    上機嫌の明美。
6 明美「冗談よ! 【風の人】売れてるわよ!
7  皆面白いって!」
8    客の入りを観察している土道
9 土道「・・・・・・そうですか」
10 明美「コーナー設置は正解だったわね」
46P    【栞の棚】近くにやってくる土道と明
2    美。
3    【栞の棚】、【風間一寸】の特設コー
4    ナが設置されている。
5    土道、キョロキョロとあたりを見回す。
6 土道「・・・・・・望月さんはおられますか?」
7 明美「栞ちゃん?」
8 土道「はい」
9 明美「たしか病院に行くとか」
10 土道「・・・・・・え」
47P 明美「なんとかって病気だとか」
2 土道「・・・・・・ありがとうございます。
3 (どもりながら)ちょっとすみません」
4    土道、明美に会釈すると、小走りで立
5    ち去る。
6 明美「あらあら」
7    にやりと微笑む明美。
8    
9 ○25吉野病院・前
10    【吉野病院】の看板。
48P    
2 ○26同・ナースステーション
3    急ぎ足でナースステーションに向かう
4    土道。
5    ナースステーションでは看護師と看護
6    師達が各々の仕事をしている。
7 土道「あの・・・・・・」
8 看護師「こちらに望月さんが入院していると
9 聞いたのですが」
10    真剣な顔の土道。
49P    看護師、看護師達と顔を見合わせる。
2 看護師「406号室の望月さんなら、先日亡
3 くなりましたよ」
4    愕然とする土道。
5 土道「・・・・・・わかりました」
6 看護師「あの、大丈夫ですかーー」
7 土道「・・・・・・はい」
8    土道、ふらふらと出て行く。
9    
10 ○27安井荘・前
50P    坂道をとぼとぼとおりてくる土道。
2    土道、アパートの前で頭を抱えこんで
3    座り込む。
4 土道「栞さん・・・・・・」
5    アパートから猫が出てきてすり寄って
6    くる。
7    土道から離れて道に出る猫。
8    栞、スーツケースを転がしてやってく
9    る。
10 土道「(絞り出すように)栞さん!」
51P 「はい」
2    土道、顔をあげる。
3    スーツケースを片手に栞が立っている。
4 土道「なんで・・・・・・」
5 「うち、そこなんです」
6    栞、斜め向かい奥側の家を指をさす。
7 「土道さんはどうしてここに?」
8    土道、アパートを見る。
9 土道「・・・・・・うちです」
10 「なるほど」
52P    栞、笑顔で頷く。
2 土道「病気・・・・・・大丈夫なんですか?」
3    栞、首をかしげる。
4 土道「吉野病院で、・・・・・・亡くなった
5 と・・・・・・」
6 「誰がそんな事を?」
7 土道「天竜書店の藤沢さんから病気で入院し
8 てると聞いて・・・・・・吉野病院を訪ねた
9 んです」
10 「店長が? おかしいですね」
53P    考え込む栞。
2    怪訝な表情の土道。
3 「あぁ、入院してたのは祖父なんです。」
4 土道「え・・・・・・あ、ご愁傷さまです」
5 「いえ、大往生だと思います」
6 土道「・・・・・・今までどこへ?」
7 「今の時期は毎年、【風間一寸】の小説の
8 舞台となった聖地へ巡礼に行く事にしている
9 んです。」
10 土道「えぇ!?」
54P 「心配かけたみたいで、すみません」
2    栞、ふかぶかと頭を下げる。
3 土道「いえ! ・・・・・・よかったです」
4    土道、立ち上がり安心した顔。
5    土道を見て微笑む栞。
6 「謎が解けたみたいですね。ところで土道
7 さん」
8 土道「・・・・・・はい?」
9    栞、ポケットから土道の手紙を取り出
10    す。
55P 「これ。くれましたよね」
2 土道「・・・・・・はい」
3 「はやくお返事をとも思ったのですが」
4 土道「・・・・・・」
5 「やはり土道さんの口から直接聞きたいで
6 す」
7 土道「・・・・・・え?」
8    つんとすます栞。
9    たじろぐ土道。
10    ため息をつき、そっぽをむく栞。
56P    うろたえる土道。
2 土道「・・・・・・好きです」
3    栞の横顔に嬉しそうな笑みが広がる。
4 「私もです」
5    土道を見てにっと微笑む栞。
6    
7 ○28共文社・前
8    【共文社】の石碑。
9    
10 ○29同・営業部
57P    土道と三宅と沼田と営業部員たち、二
2    つの長机を取り囲んでいる。ノートP
3    Cで売り上げ資料を見ている三宅。
4    三宅、親指をたてる。
5    沼田と営業部員達、歓声をあげる。
6    ガッツポーズをとる沼田
7 沼田「よっしゃー! 増刷だ!」
8    うれしそうな土道。
9    
10 ○30走る電車の中(夕)
58P    座席は乗客達で適度に埋まっている。
2    【風の人】を読んでいる乗客が座って。
3    吊革を持って立っているスーツ姿の土
4    道。
5    土道、乗客をちらりと見る。
6    【風の人】を読んでいる乗客。
7    土道の口角があがる。
8    
9 ○31駅前(夜)
10    薄暗がりでポツポツと街灯がついてい
59P    る。
2    改札から出てくる土道、立ち止まる。
3    私服姿の栞が立っている。
4    土道、栞に歩みよる。
5 土道「待ちましたか」
6 「いーえ」
7    栞、頭を振る。
8    土道、微笑む。
9    栞、微笑む。
10    土道と栞、並んで坂道を下る。
60P 土道「あっ【風の人】重版かかりました」
2 「えっ、発注しないと、押さえておいてく
3 ださいよ」
4 土道「【風間一寸】先生のサイン会も開こう
5 と思うんです」
6 「ぜひ天竜書房でしましょう! あわゆく
7 ばサイン本をください!」
8 土道「書店員さんは難しいかもしれません」
9 「えぇ!」
10    うなだれる栞。
61P    微笑む土道と栞の頭上を月の光が照ら
2    す。
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