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   .表紙
 伝統文化継承問題
   
   
   
   
   
   
   
   
      接ぐもの達
   
   
   
   
   
   
   
   
              烏野 博史
   .人物
 【シナリオ】
 課題 伝統文化継承問題
 題名 接ぐもの達  作 烏野博史 
 【一行テーマ】
 
 【三行ストーリー】
 伝統工芸士、鈴木浩介(58)が倒れる。鈴木浩平(28)と職人の北方八重子(28)は鈴木家具の意志と技術を継ぐべく奮闘する。
 【人 物】
 鈴木浩平(28~10)会社員
 北方八重子(28~10)鈴木家具・職人
 鈴木浩介(58~40)鈴木家具・社長
 鈴木一平(83~65)鈴木家具・職人
 鈴木安子(55)鈴木家具
 十勝十蔵(67)木工職人会・会長
 通訳
 バイヤー
 職人A 職人B 職人C
 バイヤー達 客達
   
   
   
   
   .脚本
1P①松前病院・前
2    〝松前病院〟の看板。
3    
4 ②同・浩介の病室
5    ベッドには鈴木浩介(58)が寝ている。
6    ベッドの側に座っている鈴木安子(55
7    )。
8    鈴木浩平(28)が病室に駆け入る。
9    安子、立ち上がる。
10 安子「浩平」
2P 浩平「どう?」
2 浩介「(弱弱しく)大したことはない」
3 安子「三日間も昏睡状態だったんだから」
4    安子、浩平の背中を押して廊下に出る。
5    
6 ③同・廊下
7    浩平と安子、廊下に出てくる。
8 浩平「それで、どうなんだい? 父さんの状
9 態は?」
10 安子「脳梗塞だって、血液をサラサラにする
3P 薬を使ってるんだけど、体が麻痺してて、し
2 ばらく入院ですって」
3 浩平「そうなんだ」
4    安子、浮かない顔。
5 安子「後遺症が残るかもしれないんですって」
6    浩平、神妙に頷く。
7 安子「お父さんも随分弱気になって・・・・
8 ・・戻ってくる事はできない?」
9    浩平、腕を組んで考え込む。
10 浩平「考えて見るよ」
4P 八重子の声「あれ浩平? 帰って来てたんだ」
2    声のほうをみる浩平。
3    北方八重子(28)、見舞いの花束を片
4    手に歩いてくる。
5    
6 ④同・浩介の病室
7    浩平と八重子と安子、病室に入ってく
8    る。八重子の手には花束。
9 八重子「親方、お元気ですか?」
10 浩介「あぁ、誰だ」
5P 八重子「八重子です。職人の北方八重子。お
2 見舞いに来ました」
3    八重子、安子に花束を渡す。
4 浩介「あぁ・・・・・・八重ちゃん。」
5 八重子「はい。あっ親方。来月の新作展示会
6 のために〝木工職人会〟に誰か寄越して欲し
7 いそうです」
8 浩介「〝木工職人会〟・・・・・・あぁ」
9 八重子「親方?」
10 浩介「俺はこんなだし、展示会には参加しな
6P いでおこうと思う」
2    息をのむ浩平と安子。
3    安子、浩平をみる。
4 浩平「俺行こうか?」
5 安子「浩平に行ってもらいましょうよ」
6    浩介、浩平をにらむ。
7 浩平「何だよ」
8 浩介「八重ちゃんも行ってくれるか」
9 八重子「あっ、はい」
10    浩平、眉をひそめる。
7P    
2 ⑤〝ぐでんぐでん〟・前(夜)
3    〝居酒屋 ぐでんぐでん〟の看板。
4    
5 ⑥同・店内(夜)
6    浩平と八重子、十勝十蔵(67)とその
7    同世代の職人Aと職人Bと職人Cとテ
8    ーブルを囲んで座っている。
9    各々の前に置かれたビール。
10    十勝、ジョッキを片手に立ち上がる。
8P 十勝「えぇ、それじゃ木工職人会の会議を始
2 めます。展示会では、予定通りお互いがんば
3 って盛り立てていきましょう。乾杯!」
4    浩平と八重子と十勝と職人Aと職人B
5    と職人C、乾杯する。
6    空のビールのジョッキが数個置かれて
7    いる。
8 十勝「ーーいやぁでも〝鈴木家具〟さんはう
9 らやましい。こんなに若いのが育ってるんだ
10 から」
9P 職人A「うちも一人若手はいるぞ」
2 職人B「俺の所はいないな」
3 八重子「私はそうですが、浩平は親方の代理
4 で来ていて別の会社で働いていますよ」
5    残念な顔をする十勝。
6    空のご飯の食器。
7 職人A「不景気で皆が金を使わないし。売れ
8 ないから問屋の数は減っている」
9 職人B「でも手工業は見直されている。そう
10 だろう」
10P 職人C「でもよぉ、買うかね。子供がね、最
2 近は安く買って長く使うんだと」
3 十勝「よし。国からの助成金用の申請はその
4 内容で行こう。
5    職人達、うなずく。
6    十勝、八重子と浩平のほうを見る。
7 十勝「それで、浩介さんはどうだって?」
8    八重子、ビールを飲みながら。
9 八重子「親方は参加できる状態じゃないです。
10 随分気落ちしてるみたいで・・・・・・」
11P    残念そうな十勝と職人達。
2    十勝たちの様子を申し訳なさそうに見
3    る浩平。
4 浩平「・・・・・・でもやっぱり〝鈴木家具
5 〟は参加させてもらおうと思います」
6 八重子「え?」
7    八重子、驚いて浩平をみる。
8 八重子「でも親方怒るよ」
9 浩平「大丈夫だって、八重子もいるし」
10    八重子、ため息をつく。
12P 十勝「そうか!・・・・・・さぁさ、飲もう!」
2    十勝、上機嫌。
3 浩平「はい。あれ、会議は?」
4 十勝「あぁ、後で見ておいてくれ」
5    十勝、浩平に〝展示会の資料〟を渡す。
6 浩平「あっ、どうも」
7    愛想笑いを浮かべる浩平と八重子。
8    
9 ⑦道(夜)
10    浩平と八重子が歩いている。
13P    浩平が〝展示会の資料〟を見ている。
2 八重子「あんな事言って、親方怒るよ」
3    浩平、ため息をつく。
4 浩平「仕方ないだろ。」
5    浩平をじっと見ている八重子。
6 八重子「浩平? またあっちに戻るの」
7 浩平「どうするかは決めていない。けど・・
8 ・・・・今は放ってはおけないからな」
9 八重子「あっそ」
10    八重子、そっぽを向く
14P 浩平「何だよ」
2 八重子「別に? 私、こっちだから。そうだ。
3 展示会の件、親方には浩平からちゃんと言っ
4 といてね」
5    八重子、そっけなく歩きさる。
6 浩平「何だよ」
7    ため息をつく浩平。
8    
9 ⑧鈴木家・前(朝)
10    鈴木家に連なって工房の建物がある。
15P    〝鈴木家具〟の看板。
2    
3 ⑨同・居間(朝)
4    和室の居間。安子がちゃぶ台で帳簿を
5    つけている。
6    浩平が〝展示会用の資料〟を持って入
7    ってくる。
8 浩平「(ひとりごと)招待状、協賛、展示の
9 場所、さわやかホール、・・・・・・あと新
10 作展示の内容か」
16P    メモ用紙に書き込んでいく。
2 安子「おはよう。浩平、昨日はちゃんと言っ
3 てくれた?」
4 浩平「あっ、参加するって言っちゃった」
5    安子、ため息をつく。
6 安子「知らないわよ」
7 浩平「そういえばさ、助成金の話が出てたけ
8 ど鈴木家具も結構苦しいの?」
9 安子「あまり良くはないわね。借金があるよ」
10 浩平「へぇ」
17P 安子「だから、お父さんもあんたが今の会社
2 に入る時は反対しなかったでしょ」
3 浩平「そうなんだ」
4    少し驚く浩平、手元の資料に目線を落
5    とす。
6    
7 ⑩同・工房(朝)
8    工房の壁には所定の場所に鋸や鉋やノ
9    ミなどの道具が陳列されている。中央
10    には職人が作業をするスペース。奥に
18P    は材料置き場と机がある。
2    鈴木一平(83)と八重子が桐箪笥を作
3    っている。
4    材料置き場から材の桐を選んでいる八
5    重子。
6    〝展示会資料〟を持って浩平がやって
7    くる。
8 浩平「ちょっと相談があるんだけど」
9    ノミを使い桐の材に〝ほぞ〟という凹
10    凸を作っていく一平。
19P    各木材に順々にほぞをつける一平。
2    一平、各木材のほぞをパズルのピース
3    のように合わせて木槌でたたき、桐箪
4    笥の引き出しの側面を組む。底板をつ
5    けて引き出しの形ができあがる。
6    各ほぞの間には隙間がなくぴったりと
7    はまっている。引き出しの桐箪笥への
8    入り具合を見て鉋で薄く削り微調整を
9    する一平。
10    目を細める浩平。
20P    
2 ⑪(浩平の回想)同・工房(朝)
3    鈴木一平(65)が鉋で桐箪笥の角に丸
4    みをつけている。一平の横で作業をし
5    ている鈴木浩介(40)。
6    鈴木浩平(10)と北方八重子(10)が
7    二人で木材持っている。じっと作業の
8    様子を見ている浩平。
9 八重子「持ってきたよ!」
10    浩平と一平、八重子のほうを見る。
21P 一平「おっ、八重ちゃん。ありがとう」
2    浩平がじっと浩介たちの作業を見てい
3    るのに気づく浩介。
4 浩介「浩平と八重ちゃんもやるか?」
5 浩平「うん」
6 八重子「やる!」
7    ほぞを作ろうとノミと金槌を振るう浩
8    平と八重子の手。
9    浩平の作ったほぞ同士がいびつながら
10    はまる。
22P 浩平「見て! できた」
2    浩介と一平が、浩平のほうを見て笑う。
3 浩介「おっ才能あるな。浩平」
4    上手くできずに木を割ってしまう八重
5    子、泣き顔。
6    うれしそうな浩平。
7    
8 ⑫元の同・工房(朝)
9    一平により〝鈴木家具〟の銘が入れら
10    れる桐箪笥。
23P    下唇をかみしめ作業の様子をじっと見
2    つめる浩平。
3    一平の横で同じ用に作業している八重
4    子。
5    八重子、浩平に気づいて歩み寄る。
6 八重子「あれ? 浩平」
7    浩平に気づく一平。
8 一平「おぅ、浩平」
9 浩平「じいちゃん。俺しばらくこっちにいる
10 から」
24P    一平、微笑みうなずくと作業に戻る。
2    八重子、半信半疑のあきれ顔。
3 八重子「ふぅん」
4    浩平、踵を返す。
5 八重子「あれ、用事は?」
6 浩平「展示会の、また相談するよ」
7    浩平、走りさる。
8    
9 ⑬松前病院・前
10    〝松前病院〟の看板
25P    
2 ⑭同・浩介の病室
3    ベッドの上、ムスっとした顔の浩介。
4    ベッドの横、膝の上でノートパソコン
5    を操作する浩平。
6    PC画面、〝鈴木家具〟のブログページ。
7 浩平「ブログを作ってみたんだけど、どうか
8 な」
9 浩介「展示会に出展するそうだな」
10 浩平「・・・・・・うん」
26P 浩介「誰が作るんだ?」
2 浩平「・・・・・・」
3 浩介「勝手な事するんじゃない!」
4 浩平「出さなくてどうするんだよ」
5 浩介「中途半端なモノを出すなら同じだ! 
6 会社はどうした?」
7    浩平、浩介を見る。
8 浩平「長期休暇届けを出した。しばらく手伝
9 えるよ」
10    浩介、唖然と浩平を見る。
27P 浩介「手伝える事なんかないだろ」
2 浩平「・・・・・・考えるよ」
3 浩介「修行もせずにか?」
4 浩平「要領はわかるよ」
5    浩介、ため息をつく。
6 浩介「無理だ」
7    浩平、むっとした顔をする。
8 浩平「(怒りに震えた小さな声で)あんたが
9 無理だ、下手だって言うから・・・・・・!」
10 浩介「なんだ? お前は・・・・・・今の会
28P 社を選んだんだろ?」
2    苦い顔をする浩平。
3 浩平「上手くできたら良いのか?」
4 浩介「あぁ、上手くできていなかったら出展
5 は許さない」
6    浩平、浩介をにらむ。
7 浩平「わかった。試作ができたら見せに来る」
8    浩平、勢いよく立ち上がり、ノートP
9    Cを持って出て行く。
10    
29P ⑮鈴木家・前(朝)
2    〝鈴木家具〟の看板。
3    
4 ⑯同・工房(朝)
5    黙々と作業をしている一平。
6    木材置き場の机にメモ用紙を広げて鉛
7    筆で図案を描き込んでいる浩平。
8    メモ用紙の図案、〝・桐の腰掛け・玩
9    具箱・・・・・・〟。
10    八重子、やってくる。
30P 八重子「おはようございます」
2 一平「おはよう」
3 浩平「おはよう」
4    八重子、一平の横で作業に入る。
5 浩平「八重子」
6    八重子、浩平を見る。
7 浩平「展示会、これ、出せないかな」
8    浩平、メモ用紙の図案を八重子に見せ
9    る。
10 八重子「浩平、帰ってくるの?」
31P 浩平「会社は長期休暇をとれたんだ。おいお
2 い仕事を覚えるよ」
3    苛立つ八重子。
4 八重子「ふぅん」
5    八重子、浩平にメモ用紙を返し、作業
6    に戻る。
7 浩平「え」
8 八重子「一平さん。今日の私の作業ですけど、
9 とりあえず残りの引き出しを上げますね」
10 一平「うん」
32P    一平、うなずく。
2 浩平「あのーー」
3 八重子「邪魔、そんなの自分でやりなさいよ」
4    浩平、とぼとぼ出て行く。
5    
6 ⑰同・工房・前(朝)
7    工房の入り口の側にはベンチがある。
8    メモ用紙を片手に工房から出てくる浩
9    平。
10    近くの自動販売機でコーヒーを買って
33P    ベンチに座る浩平。
2    コーヒーを飲む浩平。
3    浩平、メモ用紙を見てため息をつく。
4    腰を叩きながら、工房から出てくる一
5    平。
6    一平、浩平の隣に座る。
7 一平「そろそろ長時間作業はきつくてな」
8 浩平「うん」
9    浩平、上の空。
10    一平、浩平の様子を伺見る。
34P 一平「八重ちゃんは木工一筋だからな。離れ
2 ていた浩平への苛立ちもあるんだろう」
3    浩平、がっくりうなだれる。
4 一平「今から出るんだが・・・・・・乗せて
5 行ってもらえるか?」
6    浩平、怪訝な顔。
7    
8 ⑱中央公民館・前
9    木造の古い公民館。公民館の前には駐
10    車場がある。
35P    〝鈴木家具〟のロゴが入った車が駐車
2    場に止まる。
3    〝中央公民館〟の石碑。
4    
5 ⑲同・ロビー
6    一平と浩平が入っていく。
7 一平「おはようございます。桐箪笥、鈴木家
8 具です」
9    会釈する浩平。
10    職員が窓口に出てくる。
36P 職員「あぁ、おはようございます。お世話に
2 なります。あれ以前の人は?」
3 一平「浩介はちょっと病気で倒れてしまって」
4 職員「あぁそれでーー」
5 一平「洗濯したい桐箪笥というのはーー」
6    職員と一平が話し込む。
7    浩平、辺りを見回す。
8    受付奥には図書スペース。机と椅子が
9    並んでおり、くつろげるようになって
10    いる。
37P    浩平は木の本棚に目を止め、棚の角に
2    手をのばす。
3    棚は釘が使われておらず、木のみで組
4    まれている。
5    しげしげと棚の作りを確認する浩平。
6 浩平「ほぞだ。古いな」
7    棚の側面を確認する浩平。
8    製造年月日表記、〝明治24年5月6日 
9    鈴木紀一〟。
10 一平「おーい。運ぶから手伝ってくれ」
38P    一平、浩平に歩み寄る。
2 浩平「これ銘があるよ。鈴木紀一だって」
3 一平「あぁ、先代のだな」
4 浩平「明治24年って、何年前だ?」
5 一平「百二十年ぐらいか」
6 浩平「へぇ」
7    浩平と一平、感慨深げに棚を見る。
8    
9 ○20道
10    クッション材で包まれた桐箪笥を荷台
39P    に積んだ〝鈴木家具〟の軽トラックが
2    走る。
3    
4 ○21走る軽トラックの中
5    運転をする浩平。助手席の一平。
6 浩平「ご先祖様だけあって、作りが似てたね。
7 あんな近くにあるなんて」
8 一平「〝鈴木家具〟は百年以上続いているか
9 らな。そういう事もある。先代から俺が継い
10 で・・・・・・俺も浩介に託して、そうやっ
40P て技術を継承していくんだな」
2    一平、にやりと微笑む。
3 一平「そうそう、浩介も浩平が戻ってきてく
4 れて、嬉しいはずだよ」
5 浩平「(低い声で)そうかな?」
6    一平、うなずく。
7 一平「受け継いできたものを浩介も譲りたい
8 はずだ」
9 浩平「そうか」
10    浩平、神妙な顔で道の先をみる。
41P    
2 ○22鈴木家・工房(夕)
3    誰もいない工房。
4    浩平がやってきて明かりをつける。
5    メモ用紙の新商品の図案を見る。
6    浩平は材料となる板材を見ている。
7    帰り支度をした八重子がやってくる。
8 八重子「何やっているの?」
9    必要な長さに鋸で材を切る浩平。
10 浩平「試作を作る」
42P 八重子「昼やりなよ。親方がいたら怒るよ」
2 浩平「良いだろ。別に」
3    八重子、浩平の側に座る。
4 浩平「何だよ」
5 八重子「別に。私帰るわ。お疲れ」
6 浩平「おう」
7    八重子、出て行く。
8    浩平、鋸で材を切り始める。
9    真剣な顔の浩平。
10    
43P ○23北方家・前(早朝)
2    古い木造建築。〝北方〟の表札。
3    
4 ○24同・八重子の部屋(早朝)
5    手作りの箪笥。
6    手作りのクローゼット。
7    手作りの机に手作りの椅子。
8    手作りのベッド。
9    全て鈴木家具の桐箪笥の作り方と同じ
10    方法で作られている。
44P    ベッドで寝ているパジャマ姿の八重子。
2    八重子、目をさまして起きあがる。
3    カーテンを開ける八重子。窓の外はま
4    だ暗い。
5    八重子、大きく延びをする。
6 八重子「さて、行くか!」
7    八重子、クローゼットを開けて、着替
8    える。
9    机の上には手作りの写真立て。写真に
10    は一平(65)と浩介(40)と浩平(10
45P    )と八重子(10)が工房で撮影した写
2    真。浩平と八重子の手には小さな桐箪
3    笥が抱えられている。
4    
5 ○25鈴木家・前(朝)
6    〝鈴木家具〟の看板。
7 八重子の声「おはようございます!」
8    
9 ○26同・工房(朝)
10    八重子が工房にやってくる。
46P    寝ている浩平。浩平の側にはいくつか
2    の試作と試作①が転がっている。浩平、
3    目をさます。
4    あきれた顔の八重子。
5 八重子「なんだ浩平か。えっ、ずっとやって
6 たの」
7 浩平「べ、別に良いだろ」
8    不機嫌そうに工房内の試作を見渡す八
9    重子。
10 浩平「・・・・・・」
47P    八重子の表情がゆるみ、笑顔がこぼれ
2    る。
3 八重子「そうね。良いね。あっこれかわいい」
4 浩平「あぁ、これは子供用の椅子だよ」
5    試作①をまじまじと見る八重子。
6 八重子「ふーん。やっぱり器用ね」
7 浩平「どうかな」
8 八重子「これを展示会に出展するの?」
9 浩平「父さんの許可がおりたら、そのつもり
10 だけど」
48P    八重子、しばらく試作①を見つめた後、
2    しかめっ面になり試作①を床に置く。
3 八重子「駄目」
4 浩平「は?」
5 八重子「これじゃ親方の許しが得られない」
6 浩平「なんでだよ」
7    八重子、資材置き場に行き、必要そう
8    な材を取り出し、机におき木目を見る。
9 八重子「だから私が作る。」
10 浩平「え?」
49P 八重子「図案を見せて」
2    浩平の顔に笑顔が広がる。
3 浩平「うん」
4    浩平、八重子に図面を見せる。
5 八重子「ここ、こうしたほうが良くない」
6 浩平「え? そうかな」
7    八重子、図案に描き込む。
8    一平が入ってくる。
9    浩平と八重子を見て、ほほえむ一平。
10    生き生きとしている浩平の顔。
50P    
2 ○27松前病院・前
3    〝松前病院〟の看板。
4    
5 ○28同・浩介の病室
6    ベッドの上で体を起こそうと身をよじ
7    っている浩介。浩介の傍らで浩介を支
8    えている安子。
9    浩平と八重子が入ってくる。浩平の手
10    には段ボール箱。
51P 浩介「できたか」
2    浩平、頷く。
3    浩平、段ボールを地面に置き開ける。
4    段ボールの中には試作②が入っている。
5    試作②を取り出す浩平。
6 浩介「これはいったい何だ」
7    浩平と八重子、顔を見合わせる。
8 浩平「・・・・・・子供用の椅子です。優し
9 い木の温もりを生かしてみようと思いました。
10 桐箪笥は敷居が高いのでもう少し木の良さを
52P 身近に感じてもらえればと考えました」
2    浩平、八重子から試作②を受け取り浩
3    介の前に差し出す。
4    安子の補助を受け試作②に触れる浩介。
5 浩介「別の角度からも見せてくれ」
6    浩平、試作②をゆっくり回転させる
7 浩介「あぁ、八重ちゃんが作ったのか」
8    浩平と八重子、顔を見合わせる。
9 八重子「・・・・・・はい」
10 浩平「アイデアを出し合って、俺も作ったん
53P だけど、八重子のほうが上手いので。今は」
2    浩介、うなずく。
3    息をのむ浩平と八重子。
4    浩介ベッドに背中を戻すと微笑む。
5 浩介「これなら・・・・・・良いだろう。」
6    浩平と八重子、ハイタッチして微笑み
7    あう。
8    
9 ○29さわやかホール・前
10    大通りに面したさわやかホールの入り
54P    口側に看板がある。
2    〝木工職人会 家具展示会〟の看板。
3    
4 ○30同・第二多目的ホール
5    桐箪笥や桐チェストの家具や新商品が
6    並んでいる。和式の内装の場内に数十
7    人のバイヤー達や客達がいる。小物コ
8    ーナーの中に試作②、桐の子供椅子が
9    置かれている。入り口側には受付。小
10    物コーナーの前には浩平が立っている。
55P    フランス人バイヤーと通訳、浩平の側
2    に歩みよる。
3 通訳「あの聞きたい事があるのですが」
4 浩平「はい」
5    バイヤーが小物コーナーの子供椅子を
6    指さし、通訳にフランス語で話す。
7 通訳「あれは何ですか?」
8 浩平「子供椅子です。桐でできておりまして」
9    通訳、バイヤーとフランス語で話す
10    笑顔でうなずくバイヤー。
56P 通訳「フランスでウケそうな商品ですね」
2 浩平「はい」
3    笑顔の浩平。
4    
5 ○31鈴木家・前(朝)
6    T、四ヶ月後
7    〝鈴木家具〟の看板。
8    
9 ○32同・工房(朝)
10    浩平が浩介に肩を貸しながら歩いて入
57P    ってくる。すぐ側を歩く八重子。
2 浩平「もういいの?」
3 浩介「しばらくリハビリために病院通いだ」
4 浩平「ふーん」
5 浩介「新商品、売れているそうだな」
6 浩平「うん。八重子とじいちゃんががんばっ
7 てくれてるよ」
8 浩介「〝鈴木家具〟を継ぐか?」
9 浩平「うん、会社はやめたし、鈴木家具の仕
10 事をしながら夜間の工芸専門学校で勉強する
58P よ」
2    浩介、うなずく。
3 浩介「ちょっと、そっち」
4    浩平と浩助、部屋の隅に行く。
5    浩介、工房の隅からノミと鉋を取り出
6    して側の机に置く。
7    浩助を椅子に座らせる浩平。
8    心配そうな八重子
9 浩平「なにこれ?」
10 浩介「これは俺がウチを継ぐ時にじいちゃん
59P から譲り受けたものだ。やる。」
2 浩平「え?」
3 浩介「お前は昔から筋が良い。だからきっち
4 り学べ」
5 浩平「何だよ。急に……」
6    浩介、照れくさそうにしている浩平に
7    ノミを渡す。
8    八重子、少しうらやましそうに微笑む。
9 浩介「――それから八重ちゃんも」
10    浩介、八重子に鉋を差し出す。
60P 八重子「えっ、いや受け取れません」
2    浩介、八重子の手に鉋を握らせる。
3 浩介「八重ちゃんは浩平にない資質を持って
4 いる。それは俺が職人にとって一番大事な才
5 能だと思っている。どうかこいつにもわかる
6 ように、教えてやって欲しい」
7    浩介、ほほ笑む。
8 八重子「(次第に涙声)えっ、何ですかそれ
9 ……急に泣かせないで……くださいよ」
10    八重子、不覚にも涙がこぼれる。
61P    浩介と浩平と八重子、ほほえみあう。
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