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   .表紙
 旅
   
   
   
   
   
   
   
   
      亮の鉄旅ダイヤ
   
   
   
   
   
   
   
   
              烏野 博史
   .人物
 【シナリオ】
 課題 旅
 題名 亮の鉄旅ダイヤ  作 烏野博史 
 【一行テーマ】
 希望に手を伸ばす勇気を持とう。
 【三行ストーリー】
 宮沢亮(10)は鉄道博士の名誉を取り戻すため下灘へ出発。行く先々で事件を起こす木村健児(10)の母を訪ねて健児と友情を結ぶ。
 【人 物】
 宮沢亮(10)縄浜小学校・四年ろ組
 木村健児(10)その同級生、小学生、
 山田巴(33)健児の母
 柿本理絵(10)その同級生、小学生
 宮沢晴子(39)亮の母
 大男(52)
 看護師(42)
 車掌、駅員、作業員、生徒達、通行人達、人々、患者達、乗客達
   .脚本
1P①縄浜小学校・校門
2    生徒達が登校している。
3    〝縄浜小学校〟の表札。
4    
5 ②同・四年ろ組(朝)
6    思い思いの場所に散っている生徒達。
7    机で〝鉄道ダイヤル〟を読んでいる宮
8    沢亮(10)。
9    教室に入り、隣の机にランドセルを置
10    く柿本理絵(10)、亮をのほう見る。
2P 理絵「あっ、これかわいい」
2    亮のランドセルについている電車のキ
3    ーホルダーに触れる理絵。
4 「良いでしょう」
5 理絵「なに読んでるの?」
6 「鉄道ダイヤル。」
7    しげしげと鉄道ダイヤルをめくる絵理。
8    〝伊予灘ものがたり〟の特集ページで
9    手をとめる。
10 「この列車は〝伊予灘ものがたり〟って言
3P って愛媛県を通る特別列車なんだ。車体は夕
2 焼けをイメージした黄金色で、下灘駅を通る
3 時なんて――」
4 理絵「きれい。宮沢君、鉄道博士ね」
5    亮、少し嬉しそう。
6 健児「行った事があるのか?」
7    木村健児(10)、ポケットに両手を突
8    っ込んだまま亮の一つ前の机に座る。
9    狼狽する亮。
10 健児「(鼻で笑い)偉そうに。お前は見た事
4P も、行った事も、乗った事もない電車につい
2 て、話すんだな。」
3 「そ、そんな事・・・・・・!」
4 理絵「それも、そうかもね」
5    驚愕する亮。自席に戻る理絵の後ろ姿
6    を恨めしそうに見る亮、健児をにらむ。
7 健児「何だよ。本当の事だろ?」
8    亮と健児、にらみ合う。
9 「おじさんが、よく知っておく事も大事だ
10 って言ってったよ!」
5P 健児「何だそれ? 食えるのか?」
2    亮、怒りに満ちた顔。
3    亮、勢いよく立ち上がり、椅子を倒す。
4    
5 ③宮沢家・前(早朝)
6    〝宮沢〟の表札。
7    
8 ④同・玄関(早朝)
9    勢い込んで靴ひもを結ぶ亮。
10    亮の鼻息は荒い。
6P    リュックサックを背負い、靴を掃いて
2    いる亮。亮のそばに立っている宮沢晴
3    子(39)。
4    あくびをする晴子。
5 晴子「本当に一人で大丈夫?」
6 「うん。行ってくる」
7 「大丈夫! 行き方は完全に頭にインプッ
8 トしているよ!」
9    晴子、ため息をつく。
10 晴子「行ってらっしゃい。道には気をつけな
7P さい。」
2 「うん」
3    亮、前のめりに歩いて玄関を出て行く。
4    
5 ⑤縄浜駅・ホーム(早朝)
6    〝縄浜駅〟の看板。
7    時計は5時半を指している。
8    辺りは暗く、人影のないホーム。リュ
9    ックを背負った亮が時刻表を見上げて
10    いる。
8P    欠伸をしながらホームに上がる健児。
2    ホームを歩く健児、亮を横切ろうとす
3    る。振り返る亮、健児とぶつかる。
4 「あ!」
5 健児「・・・・・・お前、虫眼鏡」
6 「なな、なんだよ。虫眼鏡って!?」
7 健児「(声をひそめ)いちいち、うるさい」
8    健児、亮の口をふさぎ、辺りを伺う。
9 健児「お前・・・・・・どこに行くんだ?」
10 「下灘」
9P 健児「どこだよ」
2 「愛媛の駅だよ」
3    神妙な顔で亮を見る健児。
4 健児「愛媛・・・・・・そうか。ふーん。」
5 「そっちは?」
6 健児「(鼻で笑い)お前には教えない」
7    亮、苦虫を噛み潰したような顔。
8    電車がやってくる。
9    
10 ⑥大阪~岡山間(朝)
10P    快速電車が線路を走っている。
2    
3 ⑦走る快速電車の中(朝)
4    ガラガラの車内で車窓の外を見ている
5    亮、リュックから財布を取り出し中を
6    確認する。
7    亮、ため息をつき顔をあげる。
8    亮の向かい、少し離れた席で横になっ
9    ている健児。
10    視線に気づき、亮を睨む健児。
11P 健児「あぁ?」
2 「何でついてくんの?」
3 健児「お前こそ、なんで愛媛に行くんだよ」
4 「え、それは・・・・・・おじさんが、下
5 灘はきれいな場所だし、僕ならいけるって―
6 ―」
7 健児「おじさんておじさんて、お前もおじさ
8 んも、そんなに電車が好きなんて馬鹿か?」
9    亮、貧乏ゆすり。
10 「もう良いだろ。向こうへ行けよ! 僕は
12P 君と一緒にいきたくないんだよ」
2 健児「あぁ!?」
3    椅子をける健児。身をよじる亮。
4    健児、亮からもう少し離れた席に座る
5    と窓の外を見ながら鼻くそをほじる。
6    亮、不愉快そうに窓の外を見る。
7    
8 ⑧岡山駅・一階・一番ホーム(朝)
9    〝岡山駅〟の看板。
10    電車がホームに到着。人混み。
13P    電車のドアから亮が出てくる。
2    別のドアから出てくる健児。
3    亮、健児が歩きさるのを見て胸をなで
4    おろす。
5    
6 ⑨同・二階・売店付近(朝)
7    人込み。売店の棚には菓子、雑誌、飲
8    料水など。健児、棚のかげから店内を
9    伺い見て、棚にある菓子をシャツの中
10    に忍び込ませていく。
14P    
2 ⑩同・一階・5番ホーム(朝)
3    リュックから、乗り換え案内のコピー
4    を取り出し見ている亮。
5 大男の声「おい、待て!」
6 健児の声「嫌だ!」
7    声のほうを見る亮。目を見開く亮。
8    そばにある連絡通路への階段の上で、
9    大男に追われている健児。
10    健児の胸ぐらをつかむ大男。
15P    腕にかみつき、そのまま亮のほうに走
2    ってくる健児。
3    すごい早さで階段を降りてくる健児。
4    唖然とする亮。
5    健児が亮のほうにかけてくる。
6    側のゴミ箱の横に隠れる健児。
7    大男が階段を降りてくる。
8 大人「ここにお前ぐらいの子供を通らなかっ
9 たか?」
10 「あっちにいきました」
16P    亮はホームの先を指さす。
2 大人「そうか」
3    大人、走りさる。
4    亮、振り返る。
5 「どうしたの?」
6    健児、亮の背後から出てくる。
7 健児「(息をきらして)見ただろ。暴力親父
8 だよ・・・・・・次はどっちだ?」
9 「ここでマリンライナー号に乗り換え」
10 健児「そか」
17P    やってきたマリンライナー17号に乗り
2    込む健児。ため息をつく亮。
3    
4 ⑪瀬戸大橋(朝)
5    瀬戸大橋を渡っているマリンライナー1
6    7号。眼下に海が広がる。
7    
8 ⑫走るマリンライナー17号の中(朝)
9    二階建ての展望車から外を見る亮と健
10    児。眼下に広がる瀬戸内海。
18P 「マリンライナー号は岡山電車の223系電車
2 と四国高松運転所の5000系電車で編成されて
3 いるんだ。四桁の型式番号は本当は私鉄で採
4 用されている表記なんだけどJR四国だけは
5 ――」
6 健児「(感嘆)よく知ってるな」
7    嬉しそうに健児を見る亮。
8    亮と健児が並んで座る。
9    健児、シャツの下からお菓子を数個と
10    りんご二個を取り出す。
19P 健児「やるよ」
2 「本当に?」
3    健児、うなずく。
4    亮と健児、菓子を頬張る。
5    リュックから弁当箱を取り出す亮。
6 「あぁ、じゃ僕の弁当も少しいる?」
7 健児「気がきくね」
8    健児、亮の弁当箱のおにぎりをつまむ。
9 健児「・・・・・・俺は愛媛の松山に行く所
10 なんだ」
20P    健児は住所の書いたメモを見ている。
2 「何でいくの」
3 健児「それは・・・・・・言えねぇな」
4    亮、スマートフォンに住所を入力する。
5 「僕は道はわかるよ」
6 健児「そりゃ良いや。便りにしているぞ。」
7    電車のキーホルダーを見る健児。
8 健児「これ良いじゃん。俺にくれよ」
9 「駄目だよ。これは大事な物なんだ」
10 健児「大事な事って何だよ?」
21P 「家族を大切にする事をおじさんと約束し
2 た証拠なんだ。君にはあげられないよ」
3 健児「ふん。家族ねぇ。じゃ、俺もこのりん
4 ごは母ちゃんにでもやろうかな」
5    二つのりんごのうち一つをシャツの中
6    にいれて、もう一つを亮に差し出す。
7 健児「もう一つは、やるよ」
8 「あ、ありがとう」
9    健児、にやりと微笑む
10 健児「お前、好きだろ。隣の席の柿谷――」
22P 「いいや、そそそんな事ないよ」
2    あわてて両手を振る亮。笑う健児。
3    
4 ⑬高松駅・全景
5    電車が到着。建物に〝高松駅〟と書か
6    れている。
7    
8 ⑭同・マリンライナー17号の中
9    亮と健児、並んで寝ている。床には空
10    の菓子袋が落ちている。
23P    目を覚ます健児。
2 健児「おい、ついたぞ」
3    亮、目を覚まし、ホーム内を見る。
4    窓にはりつく亮。
5    
6 ⑮同・ホーム
7    〝高松〟の看板。
8    人々が行き交っている。路線図の前で、
9    運行表を必死に見ている亮。亮の後ろ
10    でのんびり腕を組んでいる健児。
24P 健児「ここじゃないのか?」
2    眉を顰める亮、リュックから四国の地
3    図を取り出す。地図の香川県高松市と
4    愛媛県松山市を指さす亮。
5 「こっちが高松で、こっちが松山」
6 健児「反対じゃねぇか!」
7 「・・・・・・」
8 健児「おいおいおい。勘弁してくれよ。」
9    大仰に頭を抱える健児。
10    ムッとする亮。
25P 健児「おいおいおいおい。どうすんだよ。俺、
2 急いでいるんだけど」
3 「僕だって急いでるんだ。お母さんに今日
4 中に帰るって言っちゃったし」
5 健児「はん! ママには逆らえないってか」
6 「・・・・・・このまま、快速に乗れば松
7 山に行けると思う。でもそれじゃ、僕は間に
8 合わない。特急〝いしづち号〟でいくよ」
9 健児「おいおいおいおいおい。案内役のお前
10 が道を間違えたのに一人で行く気かよ」
26P    亮、苦い顔をする。
2 「・・・・・・」
3    みどりの券売機に歩く亮。
4    駅の次発列車を確認している健児。
5    亮、浮かない顔。
6    券売機の画面、枚数ボタン。
7    財布の中身、二人分の料金はありそう。
8    〝二人〟のボタンを押す亮。
9    
10 ⑯線路
27P    山中を走る特急〝いしづち11号〟。
2 亮の声「これで責任とったからね」
3    
4 ⑰走る特急〝いしづち11号〟の中
5    隣同士だが、不機嫌そうに反対の窓を
6    見ている亮と健児。アナウンスが宇多
7    津駅への到着を告げる。
8    窓の外を真剣に見つめる亮。
9    ホームには赤い旗を掲げた作業員。
10    健児の体を揺らす亮、健児を連れて車
28P    両の先頭を指さす。亮の後を追いかけ
2    て車両の先頭に行く健児。
3    窓の外の線路の先、車掌ごしに、しお
4    かぜ11号の車両が見える。
5 「高松から来る特急いしづち号は岡山から
6 来る特急しおかぜ号とここで併結されて松山
7 に行くんだ」
8    真剣な亮の横顔を伺いみて、よくやる
9    よとあくびをかみ殺し前を見る健児。
10    
29P ⑱宇多津駅・ホーム
2    いしづち11号の車両の先頭にある仕切
3    扉を開ける作業員。作業員は赤と緑の
4    旗をもっており、緑の旗をかかげる。
5    いしづち11号、しおかぜ11号に近づく。
6    旗を左右にふる作業員。
7    ゆっくり連結。
8    作業員、連結部の幌を張り、いしづち1
9    1号から出て行く。
10    
30P ⑲松山駅・前
2    〝松山駅〟の看板。
3    
4 ⑳松山駅・一番ホーム
5    特急しおかぜ号から出てくる。
6 「ここから乗り換えで〝愛ある伊予灘線〟
7 から下灘に行くんだ」
8    深刻な顔の健児、立ち止まる。
9 健児「あ、ここだ。俺ここで降りるよ。ほら」
10    健児、ポケットから住所メモを取り出
31P    して亮に見せる。
2    メモには松山市の病院の住所。
3 健児「そうだ。お金いくらか貸してくれよ」
4    亮、眉を顰める。
5 「・・・・・・お金? ないの?」
6 健児「いや、あるよ」
7    健児、ポケットを探り、手の内を確認。
8    健児の手の平、お菓子の袋と五百円玉。
9 「――帰れもしないよ!」
10 健児「帰れるって」
32P 「(恐る恐る)切符はどこまで買ったの」
2 健児「切符?」
3    健児、反対側のポケットを探る。
4    健児の手の平に百五十円分の切符。
5    亮、健児を凝視する。
6 「駄目だよ!」
7 健児「駄目じゃねぇよ!」
8 「いや駄目だよ。お金は払わなきゃ」
9 健児「何だと!?」
10    健児、亮の胸ぐらを掴む。
33P 健児「・・・・・・お前みたいに、いつでも
2 母ちゃんにべったりの奴にはわからねぇよ!」
3 「どういう事?」
4 健児「言ってるまんまだ。俺は母ちゃんの所
5 には滅多に行かない。だから駄目じゃない」
6    亮、一瞬ひるむが、健児をにらむ。
7 「……出れないよ」
8    健児、にやりと微笑む。
9    駅舎と反対側を見る健児。
10    三番ホームのほう、いくつかの整備用
34P    車線の向こう側に公道が見える。
2 健児「案外出やすそうだ」
3 「駄目だよ」
4    健児、ため息をつく。
5 健児「良いんだよ」
6 「改札の乗り越し精算機で払えるよ。」
7 健児「喧嘩売ってるの?」
8 「駅員の人が困る」
9 健児「俺の事なんて、誰も気にしないよ」
10 「犯罪だ」
35P    健児、ニヤリと微笑む。
2 健児「お前もな」
3 「僕は違う」
4 健児「お前、お菓子食ったよな。あれ売店か
5 らパクってきた奴だぜ」
6 「え」
7 健児「(小さな声で)ほら、告げ口したいな
8 ら行けよ」
9    亮の背後、ホームの駅舎寄りの所に駅
10    員が立っている。
36P    亮、悲しそうに俯く。
2 「はやく・・・・・・どっか行けよ!」
3    うすら笑いをうかべて、反対車線への
4    階段を上る健児。健児の後ろ姿に延ば
5    した手をひっこめる亮。
6    
7 ○21同・三番ホーム
8    深刻な面持ちにベンチに腰掛ける亮。
9    亮、特別列車〝伊予灘ものがたり〟の
10    資料の入ったクリアファイルを見る。
37P    〝伊予灘ものがたり〟の下灘での通過
2    時刻、17時13分。日の入り時刻、17時2
3    0分。資料には亮によるメモ、〝デッ
4    ドライン、松山では15時35分に乗車〟。
5    亮、時計を見る。
6    時計、現在の時刻、15時27分。
7    亮、急いで、リュックに資料を片づけ
8    る。リュックの中にカサリと言う音が
9    聞こえ、リュックをのぞく亮。
10    リュックの中には、健児の菓子の袋。
38P    苦い顔で舌うちをする亮。
2    菓子袋のそばにりんごある。
3 「・・・・・・」
4    亮、スマートフォンを見る。スマート
5    フォンで調べた住所の履歴。
6    スマートフォンについている電車キー
7    ホルダー。
8    浮かない顔の亮、ため息をつき改札に
9    引き返す。
10    
39P ○22道
2    松山の町の道をかける亮。
3    道には路面電車用の線路が見える。向
4    こうから小型の蒸気機関車の形をした
5    〝坊ちゃん列車〟が白い煙を出してや
6    ってくる。脇を横切る坊ちゃん列車を
7    物欲しそうに追いかけるが、頭を振り
8    道を急ぐ。
9    温泉街の風景。
10    健児の後ろ姿。
40P    別れ道。メモ片手に電信柱の住所を見
2    る健児。首をひねり、片方の道を歩く。
3 亮の声「そっちじゃないよ!」
4    声のほうに振り返る健児。
5    亮、かけてきて、もう片方の道を見る。
6 「道はこっち」
7 健児「なんでここにいるんだ虫眼鏡?」
8 「どうでも良いだろ。ほら」
9 健児「お、おぅ」
10    亮の後を追いかける健児。
41P    
2 ○23道後温泉湯月病院・前
3    住所のメモを片手にまぶしそうに病院
4    を見上げる健児と亮。
5    固唾をのみ病院に入る健児。健児の後
6    を歩く亮。
7    〝道後温泉湯月病院〟の看板
8 看護師の声「あぁ山田さん、102号室ね」
9    
10 ○24同・102号室・前
42P    亮と健児が看護師(42)の後を歩いて
2    いる。病院を物珍しげに見回す亮。亮
3    の横を歩く健児。健児、深刻な顔。
4 看護師「喜ぶわよ。お母さん。あ、ここよ」
5    看護師、102号室の前で振り返る。
6    扉横のプレートに〝山田巴〟の名前。
7 「ありがとうございます」
8    亮が健児を見る。
9 健児「あっ、俺、うんこ!」
10 「え!」
43P    元来た道を引き返して走る健児。
2    唖然とする看護師、亮を見る。
3 「あ、じゃぁ、あ、僕も、あ、また来ます
4 から! すみません!」
5    健児を追いかける亮。
6    ぽかんとする看護師。
7    
8 ○25同・前
9    病院からかけでてくる健児。
10    健児の後をおいかける亮。
44P 「待ってよ! お母さんに会うんでしょ!
2 ?」
3    健児、立ち止まる。亮、息をつく。
4 健児「もう良いや。俺、帰るわ」
5    亮、一瞬躊躇するが、意を決して健児
6    の腕を掴む。
7 「駄目だよ」
8 健児「あぁ?」
9    健児、亮をふりほどく。
10 「もうすぐそこだよ」
45P 健児「うるせぇ、虫眼鏡!」
2 「逃げるの?」
3    健児、凶暴な顔で亮をにらみつける。
4 健児「大体、お前、電車乗るんじゃなかった
5 のか!?」
6 「やめた。ほら行くよ」
7    健児の手を引く亮。
8 健児「離せ」
9 「離さない」
10    健児、亮を殴る。倒れる亮。
46P 「家族は大切にしないと駄目だろ!」
2 健児「あぁ!?」
3    亮、健児の手を引っ張る。
4 健児「なんだ弱っちいくせに!」
5    健児、亮を倒す。
6    亮、おきあがり健児を殴る。
7 健児「やったな。虫眼鏡!」
8 「虫眼鏡じゃない」
9    行き交う人々が亮と健児を見ている。
10    健児、息を切らしはじめる
47P 健児「やめろ、何でそんなに必死なんだ」
2 「(息も絶え絶えに)大事なんだろ……な
3 ら、手を伸ばさなくちゃ駄目だ……!」
4    亮と健児、つかみあいながら倒れる。
5    大の字に倒れて息をつく亮と健児。
6 健児「あぁ、わかった。行く! 行くよ! 
7 これで良いだろ!」
8    健児、上体を起こす。
9 「・・・・・・うん」
10    亮、擦り傷のある顔で満足そうに笑う。
48P    
2 ○26同・102号室
3    四人部屋。山田巴(33)が自分のベッ
4    ドの上で窓の外を見ている。ノック。
5    健児と亮が入ってくる。
6 健児「母ちゃん」
7    巴、身を乗り出す。
8 「健児・・・・・・」
9 健児「母ちゃん」
10    巴が健児をを抱きしめる。
49P    嬉しそうな健児と巴。
2    目を細める亮。
3    満足そうに二人を見つめる亮。
4    サイドテーブルの上に置かれたりんご。
5    りんごを愛おしそうに見る巴。
6 「嬉しいわ。健児、どうやって来たの?」
7    巴、健児を見る。
8 健児「え、とそれは・・・・・・」
9    健児、亮を見る。
10    目を泳がす亮。
50P 健児「父ちゃんに送ってもらったんだよなぁ!」
2 「え、あ、どうかな」
3 「そう。あの人は?」
4 健児「今、ちょっと外で待ってるって、だか
5 らすぐ帰らないと。なぁ」
6    笑顔の健児。
7 「‥…はい」
8    きょとんとする亮。
9    
10 ○27道後公園・前(夕)
51P    〝道後公園、国史跡、湯築《ゆづき》城跡〟の看
2    板。堀に囲まれた小高い公園。
3    
4 ○28同・展望台(夕)
5    眼下に道後公園と町が広がる。亮と健
6    児が町を見下ろしている。
7 「良いの?」
8 健児「あぁ下灘だっけ、もう行かないのか?」
9 「〝伊予灘ものがたり〟はもう、出ていな
10 いからね」
52P 健児「明日行こうぜ」
2 「いやもう。もう多分心配されているし」
3 健児「ちょーっとぐらい大丈夫だって」
4    亮、リュックの中をさぐる。
5 「お金あるかな。てそっちはないでしょ?」
6    健児、千円札を五枚取り出す。
7 健児「ジャジャーン。ババアがくれた。これ
8 でお前への借りは返せるし、電車乗り放題」
9    亮、憂いを込めた顔で微笑む。
10 「乗るに足りないね。帰るのでギリだよ」
53P 健児「え、そうなのか?」
2 「うん」
3    亮、にこりと微笑む。
4 「でも、じゃぁ、行こう。下灘に!」
5    健児の顔に笑顔が広がる。
6 「あぁ、でもお母さんに、帰れなくなった
7 事を言わないと・・・・・・」
8    亮、スマートフォンを取り出す。
9 健児「そうと決まればもう寝るぞ!」
10    ごろりと寝付く健児。いびき。
54P    亮、健児を見て笑う。
2    
3 ○29下灘駅・全景(早朝)
4    一面一線の無人駅、下灘駅。松山駅か
5    らのワンマン気動車が駅のホームにや
6    ってきて停まる。
7    
8 ○30下灘駅・ホーム(朝)
9    気動車から下りる亮と健児。ホームに
10    立つ亮と健児。周りには遮るものがな
55P    く眼の前には海が広がっている。
2 健児「ここに電車が通っているってすごいな」
3 「電車じゃないよ、気動車。熱機関で動い
4 ているから電線がいらないんだ。燃料を燃や
5 すから煙も出てる」
6    山の向こうから海に朝日が指す。
7 「きれいだね」
8 健児「あぁ」
9    満足気に伸びをする亮を見る健児。
10 健児「俺の親、離婚ていうの? しているら
56P しいんだよ。今は父ちゃんと暮らしているん
2 だけど、それが、くそ親父でな、全然母ちゃ
3 んに合わせねぇ。本当に困った奴だぜ」
4 「へぇ。僕も秘密にしてる事があるんだ」
5 健児「うん?」
6 「君に行った事のない場所の話をしている
7 って言われて、僕も一人で行った事あるぞっ
8 て言いたかったんだ。だからここに来た」
9    健児、うなづく。
10    〝伊予灘ものがたり〟がやってくる。
57P 健児「来たぞ」
2    リュックから一眼レフカメラを取り出
3    し構える亮。
4 健児「亮!」
5    亮、怪訝な顔で健児を見る。
6 健児「ありがとう」
7    ぽかんとする亮、微笑む。
8 「うん」
9 健児「何がうんだ。このやろう!」
10    〝伊予灘ものがたり〟が到着する。大
58P    海原のすぐ横、楽しそうにじゃれ合う
2    亮と健児。
3    
4 ○31縄浜小学校・校門(朝)
5    ランドセルを背負った亮。
6 健児「おぉ!」
7    手ぶらの健児がかけてきて、亮の肩に
8    手を回す。驚く亮。
9 健児「なに暗い顔してるんださぁ行こうぜ」
10 「うん」
59P    亮と健児、校門をくぐる。
2    
3 ○32同・四年ろ組(朝)
4    亮と健児、教室に入る。
5    理絵、駆け足で亮と健児に寄る。
6 理絵「木村君、大丈夫だったの? 知りませ
7 んかて連絡網が回ってきたから」
8    亮と健児、顔を見合わせる。
9    健児、手を振る
10 健児「いや旅に出てたんだよ。愛媛県に!」
60P 理絵「え、本当に」
2 健児「聞かせてやろうぜ。なぁ亮!」
3    驚く亮、うなづく。
4    側にある机に座る健児。亮がランドセ
5    ルから写真を取り出して、椅子に座る。
6    理絵も椅子に座る。
7 「まず僕たちは土曜日の朝早くまだ暗いう
8 ちからすぐそこの駅行ったんだ、そしたら、
9 健児君がいて・・・・・・」
10    神妙にうなづく理絵。
61P    楽しそうに話す亮と健児。
2    机の上の写真、伊予灘ものがたりを背
3    に顔に傷をつけた健児と亮の写真。
4    
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